創造力を刺激する、光あふれる「大きな屋根裏」

デザインの仕事に従事するTさんと、昆虫研究にいそしむお父さま。建築家が2人のためにつくったのは、ちょっと変わった大きな屋根裏のある住まい。光の表情を楽しめるシンプルでおおらかな空間は、Tさんの仕事の充実度にも一役買っているようだ。

 

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表情豊かな「自然光」と暮らす家

Tさん邸は、とてもシンプルな間取りだ。1階のほとんどはLDKで、障子で仕切った先にはお父さまの書斎と寝室がある。2階はいっさい間仕切りがなく、あるのはTさんの居室のみ。それほどシンプルな造りでモノが少ない暮らしぶりでありながら、殺風景な印象や、広過ぎるがゆえの所在なさは微塵もない。むしろ、足を踏み入れた瞬間に何かからぱっと解き放たれるような、爽やかな開放感すらある。

 

Tさん邸の心地よさを生む上で大きな役割を果たしているもののひとつは、朝夕、春夏秋冬それぞれの表情豊かな自然光。生まれ育った家の建て替えを建築家の李 孝哲さんに依頼したとき、まず要望したのは「家の中のどこにいても、外光で時間を感じられること」だった。このテーマに対し李さんはさまざまな工夫で応え、中でも2階のTさんの居室は光の変化を存分に楽しめる空間となっている。

 

2階は天井がないフロアぶち抜きのワンルーム。李さんによれば、この造りはコストダウンにも貢献するそう。「この家は、平屋に大きな屋根を乗せた構造なんです。いわば、2階は『大きな屋根裏』ですね。天井を設けるよりも屋根裏に広さ・高さを出して居室とすれば、コストを抑えることができます」

 

天井がないのだから、当然、屋根を支える垂木はむき出しで、屋根の傾斜がそのまま室内にも反映される。2階には、その傾斜に沿った垂木の合間に陽光を採り込むトップライトが2カ所。ひとつは吹抜けの階段の上、もうひとつはフロアの中央だ。4つの壁面には清々しい風が通る大きめの窓と、均等に並んだ小さめの窓。つまり、上方と四方、合わせて5方向に窓があり、多彩な光が長時間入るのである。

 

「道路側の壁は同じ型の規格品で小さな窓を使用しているため、型が異なる大小の窓を使用するより低コスト。こうした窓の入れ方は、外部から室内の様子がわかりにくいというメリットもあります」と李さん。Tさんも、「この窓のおかげで外観が個性的になり、普通の民家に見えないと言われます。それに、こういう窓の配置だとカーテンがなくても外の人目が気になりません。おかげで室内はすっきり」と笑顔だ。

 

乗用車の内装デザイナーとして勤務するかたわら、挿絵画家としても活躍するTさんは、2階の自室で仕事をすることも多い。「狭苦しさのないのびやかな空間だし、窓越しの空や光、室内の木の風合いに囲まれているとホッとします。ここに住み始めてからアイデアがどんどん出るようになって、クリエイションがパワーアップしました」とのこと。光と景色で時間や季節の流れを体感できる広々した屋根裏部屋は、感性を大切する職業のTさんにとって、最高の空間となっているようだ。

 

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2階/階段を上りきったところから見たTさんの居室。ワンフロア・ワンルームで約50畳とただでさえ広いのに、垂木、柱、小窓が連続して並び、さらに奥行きを感じさせる。垂木が支える屋根の構造材はベニヤ板を用いることが多いが、「本物の素材感にこだわりたい」と、Tさん邸ではスギ板を使用

 

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2階/写真手前のフロア中央と、奥の階段付近の2カ所にトップライトを設置。上方から明るい自然光が入るだけでなく、室内にいながら青空や白い雲、夜空に瞬く月や星を望むことができ、空が身近な暮らしを楽しめる。家具は最小限にしているが、写真右手奥にはTさんの仕事スペースもある

 

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階段上部/階段を上りきったところは、床にガラス張りのグレーチングを取り入れた。真上には屋根の傾斜に沿ってまたがる滑り台のようなトップライトがあり、この窓を通した光や眺めが階下の1階まで届く

 

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2階水栓/余計なものをいっさい省いたシンプルな水栓。自宅で挿絵の仕事をしているTさんにとって、絵の具などを使う際の必須アイテムともいえる。もちろん、朝晩の洗面にも活躍する

 

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2階道路側の壁面/道路側の壁面には小さめの窓を等間隔に配した。光や風を得られる一方で外部から室内の様子がわかりにくいのがメリット。「できるだけシンプルな空間が好きなので、カーテンをつけたくないんです」と笑うTさんにはもってこいの窓だ

 

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2階外観/黒い外壁に整然と並ぶ小窓が印象的。屋根の突起した部分は2階のフロア中央にあるトップライト。屋上でティータイムなどを楽しめるよう、Tさんはこのあたりにテラスを設けることを計画中

 

「シンプルだけど個性的」を叶えた、日本家屋の要素

ほどよいサイズの窓を随所に配した2階に対し、1階のLDKは、壁一面が光をふんだんに採り込む大きな窓。隣家と密接した方角は高い位置から広範囲に光が入るハイサイドの窓のほか、足元にも小さな窓が配置され、隣家の植栽の緑が空間のアクセントになっている。

 

1階には、Tさんが最も好きだというスポットもある。北側の奥にある、2階へ続く吹抜け階段の上り口だ。ここから上を見上げると、2階床にあるガラス張りのグレーチングと屋根のトップライトを通して青い空が目に飛び込む。「北に位置しますが、日中はいつも明るく柔らかな光が入ります。空の高さを感じられるこの場所で、流れる雲や星を眺めるのが大好きなんです」とTさん。

 

こうした光や眺めの楽しさに加え、Tさん邸の心地よさを担うもうひとつの要素が構造材や建具だ。とはいえ、決して奇抜なものを取り入れているわけではない。ともすると単調になりかねない大空間に味わいを生み出しているのは、障子、柱、屋根を支える垂木など、日本家屋を構成する上で一般的に使われるものばかり。ただし、Tさん邸ではこれらの建具などが、空間デザインの要素として極めて効果的に用いれられている。

 

例えばLDKとお父さまの書斎・寝室コーナーを仕切る障子は10枚と、民家の連続した障子としてはかなり多く、それだけで十分なインパクトがある。2階のTさんの居室も同様で、等間隔の柱の列が3列。上部には垂木が整然と並ぶ。広いからこそ実現できた「規則正しいものを連続させた空間美」が、シンプルで洗練された奥行きと視覚的な動きをもたらす。

 

これらのデザインの妙は、Tさんと李さんがアイデアを出し合って生まれたもの。家づくりのプロセスで李さんが最も大切にしたのは、Tさんの希望が具体的に固まるまでの綿密なコミュニケーションだった。Tさんの飼い猫の体調不良などで間が空く期間はあったものの、初めての打ち合わせから着工までの期間は約2年。李さんはあくまで施主の意志を尊重し、施主が納得するまでじっくり対話し続ける。

 

だからこそ、仕事柄、家づくりにはさまざまな思いがあったTさんがここまで気に入る住まいができたのだろう。「李さんと対話を重ねることで、自分の中で理想の家のイメージを形づくることができました。こだわりのひとつだった障子の取り入れ方も、とても気に入っています。採光はもちろん、当初から希望していた『シンプルだけど個性的な空間』というテーマも期待以上の出来栄えでクリア。家にいるのが本当に楽しいです」

 

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1階LDK/連続した10枚の障子が圧倒的な存在感を醸すLDKは、ナラ材のフローリングに電気の床暖房を入れてあるので冬も快適。キッチンは対面式のアイランドタイプも考えたが、広さを優先して現在のスタイルに。キッチン上部はガラスがはめ込まれ、LDKの明るい光がキッチンの先にある洗面室にもおよぶ

 

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1階LDK/隣家に面した南の壁には、広い範囲を照らす高い位置からの光を採り込むハイサイドの窓。足元にも小さな窓があり、隣家の植栽の緑をピクチャーウインドー感覚で楽しめる

 

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玄関からLDKへの廊下/Tさん邸は、玄関と生活空間をつなぐ廊下が庭に沿って独立した個性的なプラン。家の中に入り、リビングに向かうまでの動線がちょっとワクワクする。土間にはトップライト、廊下の途中にも窓があり、開放感を生むと共に陽光がやさしく差し込む

 

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玄関土間/トップライトからそそぐ光に包まれた土間。上がり框は2段に分け、Tさんのお父さまが出入りしやすいように配慮した。高さは建築中にTさんのお父さまが実際に上って、使い勝手を試してから決定

 

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パントリー/LDKの障子の一部はパントリーの扉。食品や生活雑貨のストックがたっぷり入る。生活感が出やすい冷蔵庫などの家電製品もこの中に収納。おかげでLDKはすっきり広々

 

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階下から上方を見た眺め/洗面室など水まわりの近くには、吹抜けの階段の1階上り口がある。ここから上を見上げると、2階のガラス張りのグレーチングとトップライトを通して空を望むことができる。Tさんの密かなお気に入りスポットだ

 

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洗面室、バスルーム、トイレ/清潔感のある白で統一された水まわりはゆったりとしており、車椅子でも動ける広さ。バスルームの大きな窓を始め各所をバランスよく開口し、採光も湿気対策も万全

 

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外観/箱から飛び出したような廊下部分が個性的な外観。外壁はモルタルの上にソフトリシンを吹き付けたもので、砂のように少しザラついた風合いが面白い。色は夜間に照明をつけたときに美しく見える黒を選んだ

 

作った人)

李 孝哲さん

 

傾斜のあるトップライトや光を通す障子を効果的に取り入れて、光の変化に富んだ家になりました。東西南北の窓は大きさだけでなく設置する高さにも変化をつけているため、時間ごとにいろいろな位置から光が入って面白いと思います。この家の個性を象徴する2階は天井のない「大きな屋根裏」としてつくってコストダウン。屋根の面積が広くなったので太陽光発電に活用し、お父さまが安心して使えるように、コンロ、床暖房もオール電化としています。

 

住む人)

父+娘

 

李さんはできること・できないことをわかりやすく率直に伝えてくださるので、私も気軽に希望を言えました。打ち合わせはいつもアットホームな雰囲気で楽しかったですね。この家は室内でも光の変化がよくわかり、日が高くなる朝10時と月明かりを眺められる夜は、特に好きな時間帯です。高齢の父のことを考えて、玄関の上がり框は建築中に父が実際に上って無理のない高さにするなど細やかに心配りしてくださり、とても快適な家になりました。

 

建築家プロフィールページ:メッセージ)

常に意識しているのは、施主さまの立場になること。この施主さまだからこの家ができた、という結果が一番いいと思っていますので、打ち合わせではやりたいことや好きなことをできるだけ知るよう心がけています。また、家は住む人と共に歳をとっていくものですから、ご家族構成なども大切なポイントです。目先のことだけでなく10年後、20年後も見越して、住む方が楽しく心地よく暮らせる家づくりを目指しています。